『65歳イタリア遊学記』が本になりました!
当ブログ内でイタリア遊学記を連載してくださった大井さんが、『65歳イタリア遊学記』と言うタイトルで、90日間にわたるイタリア滞在を本にまとめた。ブログにも紹介されたエピソードもさらに詳しく、ディープなイタリアの日々が日記形式で記されていて、さながら著者と一緒に”遊学”を体験しているような気分になれる。
まずは退職後にイタリア語を習い始め、さらに留学まで実現させてしまった大井さんのチャレンジ精神に感嘆した。
けれども大井さんにはあまり構えたところがないので、ローマに到着した日から出発の日まで、一日もかかさずに綴られた記録や印象を読んでいると、知らぬ間に、イタリアのリアルな留学生活の日常に引き込まれている。
異国での暮らしはとても順調とは言えない。ホームステイ先は立地や部屋はまあまあでも、家主は頑固で愛想のない、超のつくケチな老人で、期待に胸を膨らませていた大井さんは、とてもがっかりする。おまけに転んで腿を打ち、幸い骨折はしなかったものの、随分と大変な思いをされたようだ。
この怪我のためにイタリアの病院で診察を受けたり、その前にも体調を壊してローマの日本人医師に診てもらったりもする。ホテルに泊まり観光バスでまわるツアーとは段違いのイタリア体験ばかりだ。
文中で何回もその苦労を語られるステイ先の鍵もしかり。鍵など何のトラブルにもならないだろうと、おそらくイタリアの鍵を知らない人は思われるだろう。
だが鍵を開けられなければ家に入れないのだ。75歳一人暮らしの家主は、しょっちゅう家を留守にしている。ホテルと違って助けてくれる人もいない。日本とほんの少し違うだけの鍵の扱いの習得ひとつが、如何に困難を極め、毎日の生活の重要問題であることか…。私にも似たような経験があるのでよくわかる。
ステイ先での食事風景もよく描かれているが、これも豪勢とは言い難い。料理が得意な大井さんも、慣れないガスコンロや調理器具の不備、おまけにうどんをつくっても食べるお椀型の食器がないなど、料理に対する意欲を失ってしまう。
でも私には何より、大井さんの、この暮らすことそのものとの格闘がとても印象的だった。語学学校での授業の難しさや、教師による課題の選び方や進め方に対する戸惑いなどの、いわゆる留学部分の話よりもずっと。
大井さんが思い描いていた留学生活とは、きっと何もかも違っただろう。でもこの違いを、特に暮らしの部分で身をもって体験することが、まさに”留学”なのではないか、そんなふうに思ったのだ。
この格闘を戦いながら、大井さんは俳句を通して知り合ったガールフレンド、テリーさんとの交流を楽しみ、学校やステイ先では、世界中からやってきた若者たちとの触れ合いを楽しむ。そして格闘を乗り越えたあと、念願のウンブリアとトスカーナをゆったりと、かつ精力的に旅をするのだ。
短い最終章の、大井さんの身も心も浮き立つように軽快な旅の様子に、全90日の日々の最後に豊かな果実を収穫されたことが感じられて、読むほうもとても嬉しくなる。
ブログに連載してくれたものと内容はかぶるが、それが日記形式で綴られると、本当にその時間を大井さんと一緒に過ごしたような気になる。苦労だらけの異文化体験とその果ての喜びを味わうには、やはり毎日毎日を大井さんと共にたどるのがおすすめだ。
大井さん、『65歳イタリア遊学記』の出版おめでとう!
そして、苦労と喜びを共に味あわせてくれてありがとう!
◆『65歳イタリア遊学記』大井光隆/著 喜怒哀楽書房
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送料込みで800円とのことです。
大井 光隆 Email/ haramitta@nifty.com