イタリア田園のバカンス-アグリツーリズモ ③

■アグリツーリズモを楽しむために

アグリツーリズモは近年、日本でも頻繁に紹介されるようになりました。そのおかげもあって、興味を持ち、滞在を希望される方も増えているように思います。豊かな自然のなかでのんびりと過ごすバカンスは、ことに日本の忙しい都市生活者の方には、とても魅力的に映るのではないでしょうか。
食事を提供してくれるアグリツーリズモでは、レストランとは一味違う郷土料理を堪能することも出来ますし、暖かな人柄のオーナーと食卓を囲むのも、もちろん周辺に点在する、世界遺産のみならず古い歴史を誇る小さな都市を訪問することも、楽しみのひとつです。 アグリツーリズモの朝食 当初はアパートタイプが主流であったアグリツーリズモも、最近では一人旅やカップルでも気軽に利用できるB&Bタイプが増えてきました。B&Bタイプではほとんどが最低滞在日数も数日からとなっており、その意味でも私たちに利用しやすくなってきています。
けれども、どこの国でもほとんど変わらないサービスを受けられるホテルと違って、イタリアのアグリツーリズモを楽しむためには、通常の個人旅行にくらべて少しだけ、テクニックと心構えが必要です。

まずアグリツーリズモへのアクセスの問題があります。日本ではたいていの農村地帯(とくに観光地)には、バスなどの公共の交通機関を利用して出かけていく事が出来ますが、イタリアの農園はぽつんと一軒だけ人里はなれたところに建っているのがほとんどで、バス停だけでなく、食料品店やレストラン、バールなどもある最寄の集落までは数キロから数十キロ、などというところばかりなのです。アクセスだけでなく、食事に出かけるにも、食料を仕入れるにも、中世の街並みが自慢の近くの街に出かけるにしても、レンタカーを借りるのでなければ、ドライバーつきの専用車やタクシーを手配しなければなりません。

アグリツーリズモの庭さらにアグリツーリズモ滞在を希望される方には、もうひとつだけ申し上げておきたい事があります。歴史と美の宝庫であるイタリアを訪れる旅ではまことに難しいことですが、なるべくゆったりとしたスケジュールを立てていただき、訪問箇所は削り、アグリツーリズモの宿泊数をその分増やしていただきたいのです。私の最初のアグリツーリズモ体験はたった一泊でした。それがどれほどもったいないことであったか…。もし少なくとももう一泊、いやもう二泊できれば、古代からイタリアの人たちが憧れてきた田園に流れる甘美な時間を、もっともっとたっぷりと、味わうことができたに違いありません。

つまりアグリツーリズモは移動の途中の便利な立地にあるホテルでもなければ、お目当ての観光モニュメントを見て歩くのに都合の良い宿でもないということです。確かに旅のスケジュールの中でそのような利点は重要ですが、アグリツーリズモとは、まずそこに滞在する事が第一の目的となるような宿泊施設であり、またそのような場所で過ごすバカンスのことを言うのです。

冒頭で述べた「イタリアの2006年夏バカンス動向調査」によると、イタリア人に人気のバカンスの過ごし方で最も多いのが「休息」、つづいて、「散歩」「日焼け」「娯楽」となっていました。「博物館・文化財見学」「他民族や文化探求」「水泳」などはそのあとです(アグリツーリズモによくあるプールも、泳ぐためではなく日焼けのためなんですね…)。
さて私たち日本人のアグリツーリズモでの過ごしかたの順位はどうなるでしょうか。外国人である私たちがイタリアを訪ねる一番大きな目的が、「休息」「散歩」、まして「日焼け」などということは絶対ありえないでしょう。やはり「博物館・文化財見学」「他民族や文化探求」となるのは明らかです。アグリツーリズモでの過ごし方もイタリア人やヨーロッパの人たちとは異なることでしょう。もっとも、私たちにとってアグリツーリズモ体験は、そのまま、「(生きた)博物館・文化財見学」であり、「他民族や文化探求」だとも考えられます。ただ、アグリツーリズモが、バカンスに上記のような優先順位をつける人たちが生み育
てた宿泊・娯楽施設であるということは、頭の片隅に置いていただきたいと思います。

日本のグリーンツーリズムは農村体験と訳されているようですが、日本人に人気の体験型のイベント、簡単な農作業や、○○狩りなど、あらかじめお膳立てされている”体験”は、イタリアのアグリツーリズモでは少ないということも、以上の説明からおわかりいただけると思います。
(滞在中のアクティヴィティーとしては、サイクリング、乗馬、テニスといったスポーツ、それ以外ではお料理教室や絵画教室…最低4-6名程度からの催行が多い…等がよくあげられています。)

以上のように、利用には少しだけ心構えや準備が必要ですが、穴場のレストランや、眺めのよいポイントなどに詳しい地元のドライバーに運転をまかせ、田園のドライブを楽しんだり、ワイナリーを訪れたりするのも一興です。私もこの間多くの方にアグリツーリズモ滞在をアレンジしてきましたので、単なるプランニングと手配だけでなく、様々なアドバイスを差し上げることも出来るかと思います。
夏は早くから予約で埋まってしまい、とくにアパートタイプでは最低宿泊数も1週間からとなるアグリツーリズモも、秋には数泊から受け入れてくれるようになります。
もし可能であるなら、今年は夏の休暇をずらしてとって、アグリツーリズモにお出かけになってはいかがでしょうか。イタリアの人たちのバカンスが終る頃からが、私たちがアグリツーリズモを楽しむ、最適のバカンスシーズンとなるのかもしれません。

(この記事は、2007年6月に JAPAN-ITALY Business On-line に
掲載されたものです/竹川 佳須美)

 

Return to Top ▲Return to Top ▲