イタリア田園のバカンス-アグリツーリズモ ②
■アグリツーリズモの魅力
アグリツーリズモの魅力とはまず第一に、田舎(田園地帯)の自然景観の魅力、つまりアグリツーリズモの周囲に広がる環境そのものの魅力です。サルデーニャやプーリアの海がため息がでるほど素晴らしいいように、トスカーナであれば優美なカーブを描く丘が、美術館に並ぶ額縁に切り取られた絵画さながらに広がっています。
たとえば前述のモンテプルチアーノがあるシエナ県には既に、サン・ジミニャーノ、シエナ、ピエンツァとユネスコの世界遺産が三箇所もあったのですが、その後2004年にはオルチャ渓谷が加わって4箇所とりました。このオルチャ渓谷こそ、丘の上に糸杉が並木を作り、オリーブやブドウの畑が広がる、いかにもトスカーナらしい景観を誇る地域なのです。
古代ローマやエトルリア時代にまで起源を遡る都市の魅力の他に、南トスカーナにはもうひとつの魅力がある、そのことはこの地にアグリツーリズモを開いた農
家の人々も、そのアグリツーリズモを訪れた多くの人たちも、いや、絵画の背景にこの地の風景を描き込んだルネッサンスの画家も、ユネスコが認めてくれるま
でもなく、ずっと前から知っていたことだったのです。
そして二番目には、その豊かな自然景観と一体となった、美しく整えられたアグリツーリズモの魅力があります。農園そのものも、古いものでは中世からの歴史を誇り、時の記憶をそこここに刻み付けていますし、またその歴史を大切に伝えるように修復されています。
私たちはシエナ近郊のアグリツーリズモを、ほんの偶然から選びました。選んだと言うより、パンフレットからリストアップしてかたっぱしから電話をかけたのに、ほとんどのところに断られてしまったので、選択の余地はなかったのですが。
けれども幸いなことに、この地方に特有の暖かみのある茶褐色の石で積み上げられた、古びた建物を持つこのアグリツーリズモは、たった三軒のアパートタイプを要するのみなのに、雰囲気といい、キッチンやバスルームなどの設備といい、レベルの高い一軒でした。
夕食はシエナのレストランで済ませていたのですが、私たちは持参したワインとチーズで遅くまでおしゃべりをして過ごしました。すぐに眠ってしまうのはあまりに惜しい気がしたからです。ぐっすりと眠った翌朝は、たっぷりのカフェラッテや新鮮な果物に卵料理などを添えた朝食を楽しんだあと、オーナーがゆっくりしていけばいいと言ってくれたのに甘え、付近を散歩して過ごしました。
晩秋の薄もやに包まれた庭には、たくさんの木々が生い茂り、紅葉したつたにおおわれた小屋やがあったり、ロバがのんびりと”散歩”していたりしました。他には滞在客の幼い姉と弟が、白い肌に金色の髪をなびかせて走り回っているばかりで、農園は静まり返っています。農園を出てしばらく歩いても、幹線道路に出るまで、時折似たような農園があるほか、辺りには何もありません。見渡せば斜面には、黄色に色づいたブドウ畑が広がる丘が、はるかに続いていました。
時を経た建物と庭、その農園と、農園を取り囲む丘や森や渓谷が作り上げる調和のすばらしさ…、それらをいながらにして体感できるのが、まさにアグリツーリズモなのだと私は知りました。このときのアグリツーリズモとの幸福な出会いが、その後多くのアグリツーリズモに実際に泊まり、信頼できるオーナーとのパイプも築いていく、最初のものでした。あの秋の日から9年、嬉しいことに、今では業務の大きな柱としてアグリツーリズモを位置づけるまでになっております。
(この記事は、2007年6月に JAPAN-ITALY Business On-line に掲載されたものです/竹川 佳須美)
③に続く